緑内障の分類と治療
日本緑内障学会の行った大規模な調査で、40歳以上の日本人の5.0%が緑内障にかかっていることがわかっています。しかし、緑内障にはいろいろな形があり症状も治療法も異なります。
眼の機能と検査の説明
- 眼圧
眼球にはゴムボールのように一定の内圧があります。ボールに空気をたくさん入れれば圧が上がりボールは硬くなります。つまりボールの内圧が上がれば、ボールの壁を内側から押している力が強くなります。人の体は血液の流れにより栄養がおくられています。眼球の前の方は、血液のかわりに房水という透明な水の流れにより営まれています。血液と違って透明なので、それをとおして光が眼の奥にとどきます。この房水が眼の中でつくられる量と、眼から流れ出ていく量とのバランスで眼圧が決まります。眼圧が上がれば眼球の壁は内側から強く押されることになります。 - 隅角
房水の眼からの出口で、角膜(くろめ)と強膜(しろめ)と虹彩(ちゃめ)とでつくられる眼のかどの部分です。 - 視神経乳頭
眼底検査で眼の内側を見ることができます。眼の一番奥には、視神経が眼の内側に顔を出しています。この部分を視神経乳頭と呼びます。緑内障では視神経乳頭に萎縮がおこります。視神経が緑内障で傷んでしまうともう元には戻りません。OCTという器械で、視神経乳頭とその周りの網膜の萎縮程度を詳細に調べることができます。 - 視野
眼がものを見る時、いろいろなことを感じています。中心で細かいものを見る力は視力として測れます。眼のもっと広い範囲を見る力、眼の光を感じる感度のひろがりが視野というものです。視野計という器械をつかって測ります。 - 眼圧の正常値
世の中のできごとはすべてばらつきがあります。眼圧はとくに個人差が大きく、正常な眼の95%で眼圧の値が10〜20mmHgのあいだというようにばらつきます。つまり正常な眼でも、その5%では眼圧は9以下か21以上ということです。逆に眼圧が10〜20mmHgでも、その人にとっては正常ではなく緑内障の視神経萎縮が起こることもよくあります。
緑内障の分類
いろいろなタイプの緑内障がありますが大きくわけると、まず、隅角が狭くて眼圧が急上昇する閉塞隅角緑内障があります。これに対し隅角は広いのに房水の流れが悪くなって、じわじわと視神経が傷んでいく開放隅角緑内障があります。また、他の眼の病気に伴っておこる続発緑内障、その他の緑内障と分類できます。最初に述べたようにそれぞれ自覚症状、病気の起り方、治療法が異なります。
閉塞隅角緑内障
隅角が遺伝、年齢などの要因で狭いということがもともとある眼におこります。隅角がふさがってしまうと眼圧が急に非常に高い値になります。これを緑内障発作と呼びます。眼痛、充血、視力低下だけでなく、頭痛、嘔吐など全身の症状もあらわれます。適切な治療が直ちに行われなければ数日の間で失明する危険があります。瞳を縮める薬の頻回点眼、高浸透圧剤の点滴を行って、眼圧を下げてからレーザー光線で虹彩に水の通り道をつくる治療(レーザー虹彩切開術)をおこないます。治療が遅れると隅角に虹彩が癒着してしまい、緑内障発作がおさまっても眼圧上昇が残ります。この場合は隅角が広い緑内障のように薬物治療を続け、薬剤でコントロールがつかなければ手術となります。
また、レーザー虹彩切開術により緑内障発作を繰り返すことはなくなりますが、隅角が狭いという不都合は残っています。白内障がある眼では、白内障手術を行い厚い水晶体を薄い眼内レンズに変えて、隅角を広げることを行います。
隅角が狭く緑内障発作を起こす危険が高いことが認められたなら、緑内障発作を起こす前にレーザー虹彩切開術、白内障手術を行います。
開放隅角緑内障
隅角は広いが、視神経乳頭に眼圧で押された形の萎縮がおこり、視野狭搾、進行すれば視力低下、失明となる緑内障です。視神経の力にはかなりの余裕があるので、明らかに視神経乳頭に萎縮が認められる段階でも軽いうちは自覚症状はまったくありません。逆に、視野狭搾などを自覚するようになった時点では、もう視神経に力の余裕はないので病気がどんどん進行してしまう危険があります。
昔はこのタイプの緑内障は眼圧が20mmHgより高い例がほとんどと思われていましたが、日本人では全患者の3分の2以上が眼圧は20mmHg以下ということがわかりました。これらを正常眼圧緑内障と呼びます。視神経が正常の眼より弱く、正常値とされる眼圧でも負担となり萎縮がおこってしまうのです。したがって緑内障の診断で重要なのは眼圧、視神経乳頭所見、OCT検査、視野検査、隅角検査などにより総合的に判定することです。
治療法として確立されているのは、眼圧を下げ、視神経の負担を軽減することです。点眼薬で眼圧を下げますが、薬の効きが悪い人では、何種類もの点眼薬、さらには内服薬を用いることになります。レーザー手術(レーザー線維柱帯形成術)は、かえって眼圧が上昇する危険もあり、対象となるのは一部の緑内障に限られます。薬物治療で眼圧のコントロールがつかなければ手術が必要です。手術により房水の新たな流れ道を作り眼圧を下げます。緑内障手術はこのように薬の効きの悪い人に対し病気が進行することを防ぐために行うものです。すでに悪くなってしまった視神経はなおせません。開放隅角緑内障では早期発見早期治療が重要で、一生涯治療を続けていく必要があります。
続発緑内障
眼の炎症、外傷、薬の副作用などに伴って眼圧が上昇する緑内障です。原因疾患の治療を緑内障の薬物治療とともに行います。
その他の緑内障
先天性緑内障、重症の糖尿病網膜症・網膜中心静脈閉塞症などに合併する血管新生緑内障があります。
緑内障手術(緑内障インプラント手術)
薬剤で眼圧のコントロールがつかず緑内障進行の危険が高い場合、眼圧を下げるために観血的緑内障手術を行います。
緑内障の視神経の障害は、手術を行っても元には戻りません。緑内障手術は視野、視力を回復させるために行うのではなく、今後の障害の進行をくいとめて視野、視力をできるだけ長い間維持させるために行うものです。
緑内障手術は、白内障手術と比較すると合併症の多い手術です。特に問題となるのが、手術直後の手術の効き過ぎです。この合併症を減らすために、緑内障インプラント手術という方法を用います。緑内障の線維柱帯切除術と同じ形の手術を行い、全長2.64mmのエクスプレスという名の手術機器を眼球壁に挿入して房水の流れ道を一定の大きさにします。インプラントを挿入しない場合と比較して、術後早期に低眼圧になることが少なくなります。また、虹彩を切る必要がなくなるので前房出血の危険も減ります。
線維柱帯切除術、緑内障インプラント手術などの観血的緑内障手術では、房水の流出路を作り、結膜下の濾過胞という盛り上がりに導きます。しかし、術後、傷が治るという反応で流出路が塞がってしまいます。これを防ぐために、抗癌剤の一種、マイトマイシンCを手術中に塗布し癒着を起こりにくくします。傷のつきが悪くなるので縫合は慎重に行い、術後効きが悪い時はレーザー光線で糸を1本ずつ切って眼圧を調整します。術後房水が漏れている時は、縫合を追加することもあります。
先に述べたように緑内障インプラント手術では起こりにくくなりましたが、術後低眼圧が続くと房水の流れがおかしくなり、房水が眼底に回り脈絡膜剥離という状態となります。そして、前房すなわち角膜と虹彩の間が浅くなります。浅前房では焦点が合わなくなり、角膜が障害を受けます。眼球を圧迫し点滴を続けますが、状態が改善しなければ再手術が必要となることもあります。
マイトマイシンCを使っても、長期的にだんだん手術の効果が低下する場合があります。この時は濾過胞再建術という形で癒着剥離を行うこともあります。
アイステント
iStent(アイステント)というチタン製のステント(筒)を、房水の主流出路であるシュレム管に突き刺して、房水の排出を増加させ眼圧を下げる手術です。
治療の目的・有効性
- 白内障と緑内障の同時治療が可能
適応があれば、アイステントを使用することによって、白内障と緑内障の同時治療が可能になり白内障手術後の眼圧を下げることが出来ます。 手術による傷が白内障手術によるものだけなので、患者様の負担が少なく、通常の緑内障手術よりも術後の生活が楽になります。 また、乱視が大きく増えたりひどいごろごろ感が起きることがありません。 新しい治療を取り入れ、さらに患者様の満足に繋がることを目指していきます。 - 眼圧を下げる
白内障手術と同時に、眼圧を下げる目的でアイステントという装置を埋め込みます。 長さは1mm(ミリメートル)、チタンでできており、重さは60マイクログラムです。 白内障手術でも眼圧は下がることが多いですが、アイステントを埋め込むことで、個人差はあるものの緑内障点眼1種類分(1年後で3~8mmHg)くらい眼圧がさがります。 - 点眼薬数を減少
術後に使用する点眼薬数を減少させることも効果として加味されています。