七条剛「僕の軍師は、スカートが短すぎる」

言わば、行動経済学入門ラノベ。

毎日が終電帰りのシステムエンジニア、史樹。ある夜、自宅玄関にうずくまっていた女子高生、穂春を家に泊めることに。穂春はそのお礼にと、史樹の仕事上のトラブルを行動経済学的アプローチでたちどころに解決していった。

経済学の話だけでなく、心の琴線に触れる家族愛がテーマとして語られ、満足感を持って読み終わることができた。

シカゴ大学リチャード・セイラー教授が2017年にノーベル経済学賞を受賞して、再び、行動経済学が話題となることが増えている。人間は行動が感情に左右され、非合理な行動を取ることが多い。従来の経済学では説明しきれない経済行動を、人間の心理という観点から解き明かそうとするのが行動経済学である。

行動経済学入門まんがの、佐藤雅彦、菅俊一、高橋秀明「ヘンテコノミクス」も、2017年11月に出版され注目を集めたことが記憶に新しい。

ヴィム・ヴェンダース「都会のアリス」

映画「パリ、テキサス」で有名な、ロードムービーの大家、ヴィム・ヴェンダース監督の、ロードムービー三部作の第1作「都会のアリス」をレンタルDVDで観た。ツタヤディスカスで在庫が5枚しかなく、レンタルにはしばらく待たされた。中古DVDはプレミアム価格となっていて高い。U-NEXTで唯一動画配信が行われているようだ。1973年の映画である。

31歳のドイツ人作家フィリップは、旅行記執筆のため米国内を旅していたが、すべて同じような風景に見え、TVの番組も似通っていて面白くない。ポラロイド写真を撮りまくったが、文章は1行も書けないでいた。

折りたたみ式のSX-70ポラロイドランドカメラは、発売されたばかりのシートフィルム方式で、当時の日本の感覚では贅沢品だった。フィルム代も安くはなかったと思う。監督が惚れこんで、ポラロイド社から借り受けたということだが、フィリップには分不相応な持ち物に見え違和感を感じた。

デジタルカメラに押されて、ポラロイド社がポラロイドフィルム製造を中止した後、インポッシブル・プロジェクトによる復活まで長い道のりだった。現在は再び、フィルム、カメラとも手に入る。しかし、フィルムはかなり高価である。

ニューヨークからドイツに帰国することにしたが、ドイツの空港ストライキのため、ドイツに向かうすべての便が欠航。アムステルダム便に乗り、陸路ドイツを目指すしかなかった。空港で、離婚したばかりのドイツ人女性リザと9歳の娘アリスと知り合った。エンパイアステートビルでの待ち合わせにも、アムステルダムでの待ち合わせにもリザは現れず、フィリップはアリスを連れてニューヨークからアムステルダム。アムステルダムからドイツのヴッパタールへと旅を続けていった。

アリスの記憶ではおばあちゃんの家があるはずのヴッパタールは、懸垂型のモノレール、ヴッパタール空中鉄道が目を惹く。

最初は自分の価値観ですべて判断する嫌なヤツと感じられるフィリップだったが、アリスとの交流の中で徐々に心を開くようになっていった。

途中、警察に助けを求めたが、アリスは警察を脱走して、またフィリップと旅を続けた。親子でない男性と幼女が一緒にいたら、今日ならペドフィリアという理由で逮捕されていたのではないだろうか。

シャーロット・ランプリング主演「愛の嵐」

前回の「未来惑星ザルドス」に引き続いて、シャーロット・ランプリング繋がりで、手持ちのDVDから「愛の嵐」を見直した。

シャーロット・ランプリングは、これから公開のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の「DUNE」に、教母ガイウス・ヘレン・モヒアムとして出演するので、今までの作品をおさらいしておこうという意図もあった。

「愛の嵐」は、リリアーナ・カヴァーニ監督の1974年の映画。ナチス帽にサスペンダーで歌い踊るユダヤ人少女の姿が、多くの観客の心に強烈な印象を残していることだろう。

ナチス親衛隊将校だった過去を隠して、ウィーンのホテルの夜番フロント兼ポーターとして働く男マックスの前に、かつて強制収容所で弄んだ女性ルチアが、高名なオペラ指揮者の妻となって客として現れた。最初はすぐにもウィーンを出ていこうと主張したルチアだったが、なぜか夫を巡業公演に送り出し一人残った。ルチアとマックスは、二人して、血と痛みそして飢餓を伴った、出口のない狂気とも言える病的な恋愛関係に溺れていく。

ところどころにナチス時代の回想シーンが挟み込まれるが時間的には短く、視点は常に現在に引き戻される。思い出で飾られた過去の官能ではなく、今の底の知れない泥沼が描かれる。

元ナチス将校秘密互助会の存在は、恐ろしいが興味を惹かれる。実際にこのような組織があったということだ。

ショーン・コネリー主演「未来惑星ザルドス」

逝去の報に接して、所有していたDVDで「未来惑星ザルドス」を見直した。1974年の作品で、監督はジョン・ブアマン。

この映画のキービジュアルは、岩でできた巨大な人の頭部が空を飛んでいくシーンだ。筆者と同年代ならば、記憶に留めている人は多いと思う。時は2293年の未来。この人の顔をつけた頭(ザルドス)は、支配階級である不死のエターナルと、獣人と呼ばれる寿命を持つ普通の人間とを結ぶ輸送機の役割を果たしていた。獣人から選ばれたエクスターミネーターという名の殺人部隊が、ザルドスから銃を受け取り獣人の数減らしを行っていた。その隊長ゼッド(ショーン・コネリー)は、ザルドスに密航しエターナルのための隔離された土地、ボルテックスに入りこんだ。

エターナルの社会ボルテックスは、映画が制作された時代、1970年代フラワーチルドレンの文化を反映している。時に集団で瞑想し、評決を行ってすべてを決定する。彼らの中には不死のため人生に意欲を見出せなくなり、無気力となった者も数多く存在した。

ザルドスの語源は、「オズの魔法使い」(Wizard of OZ)だった。ゼッドは図書館の廃墟で、この本にすでに接していたのだ。

エターナルの不死性をコントロールしていた演算結晶タバナクルを、ゼッドは打ち破った。エターナルたちは喜んでエクスターミネーターによる殺戮に身を任せた。ゼッドを最初は危険視していた女性エターナル、コンスエラ(シャーロット・ランプリング)は、ゼッドと結ばれ、墜落したザルドスの中で子を成し、二人は老いて朽ち果てていく。ベートーヴェン交響曲第7番第2楽章が流れている。

山本弘「プロジェクトぴあの」

noteで配信された、あとがき「これは『ハードSF作家・山本弘』の遺書だと考えてください。」という殺し文句に突き動かされて本書を購入ダウンロードした。作者は、2年前に罹患した脳梗塞で計算能力と論理的思考能力を失ったままだという。

noteの記事へのリンクは下記。

https://www.hayakawabooks.com/n/nf9f666619589

タキオン推進を開発する、マッドサイエンティストのアイドル歌手の10年間に渡る物語である。あとがきで触れられた通り、主人公の結城ぴあのは、性格から行動まで首尾一貫して人類の規格を超えた、非常に魅力的なキャラクターだ。

巻末の野尻抱介による解説にさらに追加すると、ファインマンの教科書「ファインマン物理学II」の第21章「爪車と歯止め」に、ブラウン・ラチェットが詳述されている。ここでの扱いは、むしろ、熱力学第2法則が破れないことの例証としてだ。

太陽のスーパーフレアから、第2国際宇宙ステーションに取り残されたクルーを救出する場面で、このブログの筆者は感極まって声を上げて泣きそうになったことを告白しておく。

ケン・リュウ編「月の光」

「紙の動物園」のケン・リュウが、編纂・英訳を行い、その邦訳として2018年に出版された現代中国SFアンソロジー「折りたたみ北京」は、多くの読者を獲得した。これに続く現代中国SFアンソロジー第二弾が「月の光」だ。14人の作家による16篇が収載されている。

もっとも胸を打ったのが宝樹(バオシュー)の「金色昔日」だった。作中の世界では、歴史がわれわれの世界とは逆向きに進行する。繁栄の日々は過去のものとなり様々な出来事を経て、毛沢東と文化大革命の時代から、蒋介石と中華民国の時代に移っていく。過酷な歴史に翻弄される主人公の生涯、幼馴染の恋人との別れ、再会、また別れが描かれる。

途中語られる「朝三暮四」の故事に色々考えさせられた。猿に栃の実をあたえるとき、朝に三個、夜に四個やると、猿は怒った。そこで朝に四個、夜に三個やると、猿はよろこんだと。時間の流れ方により現在の状況は変わろうと、幸せの総量は同じということか。

Twitterから、「折りたたみ北京」が中国で映画化されるニュースが飛び込んできた。

https://virtualgorillaplus.com/movie/folding-beijing-adoptation/

渡辺洋「向日(こうじつ)」

https://youtu.be/FoGkn9ppsVo

その昔、演劇シーンでともに活動した友人の詩人、渡辺洋(故人)の遺した詩が楽曲となりました。アートにエールを!東京プロジェクトの参加作品です。

作曲はウィーン国立音楽大学声楽科でアジア人で初めて教鞭を取った三ッ石潤司。テノールの佐藤洋とギターの岡本拓也とはウィーンでの仕事繋がりです。

朗読はこの作品の発案をした葉野ミツル、彼女も古くからの友人です。テノールの佐藤洋とは親と子の関係。

とても美しい曲となっています。よろしければリンクをクリックしてご鑑賞ください。

https://youtu.be/FoGkn9ppsVo

陳楸帆(チェン・チウファン)「荒潮」

中国南東部のシリコン島で日々、電子ゴミから資源を回収して暮らす最下層民「ゴミ人」。主人公の米米(ミーミー)もそのひとり。彼女たちは昼夜なく厳しい労働を強いられ、得たわずかな稼ぎも島を支配する羅、陳、林の御三家に搾取されていた。そんな中、島をテラグリーン・リサイクリング社の経営コンサルタント、スコット・ブランドルとその通訳である陳開宗が訪れて、事態は変化する。

「三体」の劉慈欣が「近未来SF小説の頂点」と絶賛した本書。中国での出版は2013年、英訳が2019年で、2020年1月に邦訳が発売された。

「最近の金持ちは携帯電話を換えるように手足を換えるんです。」ゴミにはウイルス(電子的なもの、病原体の両方)などで汚染された生体部品が混ざり込んでいた。

背後に潜んでいた「荒潮計画」。ビスマルク海海戦で沈んだ日本海軍の駆逐艦「荒潮」。艦長の婚約者だった生化学者鈴木晴川は、戦後米軍と契約し幻覚剤兵器の開発を主導したのだった。

「荒潮」もダンピール海峡の悲劇も私が知ったのは、今年で7周年となる艦船を擬人化した某ブラウザゲームでだが、本作の執筆は2011年から2012年ということなので、ゲームとは無関係のところから作者の構想が生まれたのは確かだ。

巨大人型兵器と主人公の精神感応リンクも描かれる。英訳版の表紙はこれによる。

陳楸帆の短編は、ケン・リュウ編集のアンソロジー「折りたたみ北京」(2018年)で、「鼠年」「麗江の魚」「沙嘴の花」の3篇が出版されている。とくに「鼠年」の印象が深かった。本シリーズの第2弾「月の光」には、「開光」「未来病史」の2篇が載っている。これから読む予定だ。

滝本竜彦原作「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」

三浦春馬を偲ぶため、中古DVDで映画「ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ」を見直した。舞台「ZIPANG PUNK〜五右衛門ロックIII」シアターオーブ(2013.1観劇)や、映画「永遠の0」(2014.1鑑賞)はまだ記憶に比較的しっかりと残っていたが、本作は映画館で2008.2に観たきり忘れていた。

原作は「NHKにようこそ!」で有名になった元ひきこもり作家、滝本竜彦のデビュー作だ。2001年発売で、2002年に読んでいる。

長編映画のメガホンを取るのは初めての、北村拓司が監督である。

映画の内容は原作とほぼ同じで、絵里の制服はセーラー服ではなくブレザー。へたれな高校生山本陽介(市原隼人)は、チェーンソーを振り回す怪人との死闘を繰り返している美少女高校生、雪崎絵里(関めぐみ)と出会った。チェーンソー男が出現したときから、驚異的な身体能力が芽生えた絵里だったが、陽介は常人のままでまったく戦力にならず後ろで応援しているだけ。しかし、陽介の粘りから、二人で行動をともにすることは続いていった。

バイクで夜間暴走し死亡した、陽介の同級生の友人、能登を三浦春馬が演じた。12年前の映画なので、撮影時は17歳か18歳か。とにかく若い。永遠に陽介の先を走り続け、追いつくことのできない男の位置づけだ。

「無理だよお前は。あの子とダラダラと薄らぼんやりとした幸せを楽しめよ」

「なぁ能登!」「生きているオレが羨ましいだろう!」

劉慈欣「三体II黒暗森林」

劉慈欣の三体3部作の第二作「黒暗森林」が本年6月18日に発売となりました。私自身は6月中に読み終わっています。このブログに載せるのが遅れるのはいつものことですが、ネタバレしたら絶対にまずいストーリーの大展開が何度もあるので、具体的な紹介が書けないことも遅れの原因でした。

このブログ内では、2019年8月の投稿で最初の「三体」第一作の紹介をしています。まだお読みでなければ、そちらをお先にどうぞ。

三体世界からの侵略艦隊の到着を四百数十年後に控えた地球は、11次元の陽子から作られた、タイムラグのない量子もつれによる通信が可能な、智子(ソフォン)の監視のもとにある。人間の心の中だけが智子にのぞかれない場所だという理由で、4人の選ばれた面壁者に人類の未来は託された。