マーク・ハッドン「夜中に犬に起こった奇妙な事件」

円城塔と田辺青蛙の作家夫妻が、交互に本を紹介し合う読書リレー「読書で離婚を考えた」で、円城塔からの課題図書として知った。

自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)の特性を持つ少年の一人称で語られる小説。近所で殺された犬の謎を追うという枠組みで始まるが、事件そのものよりも認知様式の違いが世界の見え方をどれほど変えるかが描かれる。

語りは徹底して論理的で、比喩や感情の含みを排す。多くの読者にとって自然な「察する」「気持ちを汲む」といった理解の回路が前提とされない。そのため読者は、違和感、読みづらさを覚えるがその感覚が重要だ。

本書は、ASDを説明したり理解を促したりする啓発書ではない。むしろ、多数派の認知や感情理解が「標準」として機能していることを、読者に体感させる文学作品である。その意味で、診断名や知識以前に、「なぜ話が噛み合わないのか」「なぜ善意が伝わらないのか」を考えるための、サジェスションを与えてくれる。

筆者も自分が「暗喩」「忖度」「当てこすり」の領域を、不得意分野としていることに気がついた。