姉から猫の世話を頼まれ、 見知らぬ町に滞在することになった翻訳家の宮原。 近づかぬよう忠告されていた商店街にうっかり迷い込んでしまう。そこは常に景色が変容し、幾層にも重なりあった異界が垣間見える。商店街の深淵から救出されるも、姉が異界の町の御神体にされたことを知らされる。
商店街を異界に通じる迷路と感じるのは、都会育ちの少年ならばある程度共通して持つ感覚なのではないだろうか。
筆者は2歳から17歳の間、目黒区の目蒲線(現在の目黒線)沿線で暮らした。最寄駅の商店街は小さいものだったが、にこま通り商店街にニコニコ通り商店街がくっついているだけで、親に手を引かれた少年にとっては居場所が不確かとなって混乱した。
隣町のアーケード街は大きかった。筆者が住んでいた頃は、1956年完成の初代のもので、現在より短いが470mあったそうだ。1985年にアーケードが建て替えられ、現在は全長約800mで東京一の長さを誇るアーケード街である。歩いている時は、横道に区切られる度に、町並みが整数倍繰り返されていると感じていた記憶がある。
酉島伝法の小説の中では、人間が住む世界であり、若干昭和寄りであるが現在とさほど変わらない時間軸の民俗学的なお話である。慣れないうちは、造語の頻発に苦労するだろうが、熱心な読者はこのクラクラする感覚を求めているのである。

