豊永浩平「月ぬ走いや、馬ぬ走い」

沖縄出身、新しい世代の小説。

十四章の構成で沖縄の近現代史を描き切る。豊永浩平の小説「月(ちち)ぬ走(は)いや、馬(うんま)ぬ走(は)い」は、沖縄の方言のリズムを生かしながら、戦争の爪痕と人間の欲望を描き出す力強い作品です。

題名は「月が駆けるように、馬が駆けるように」という古い表現からとられ、時の流れの速さや、人間の生き急ぐ姿を象徴しています。

物語では、沖縄戦で崩れた社会の秩序や共同体の絆が描かれると同時に、その混乱の中で生じた性の乱れや人間関係の歪みも赤裸々に示されます。戦争は人を殺すだけではなく、生き残った人々の生活や価値観をも変えてしまう。その現実を、豊永は沖縄の言葉を通して普遍的なテーマへと昇華させました。

沖縄という土地の記憶から生まれた物語は、世代も地域も越えて、私たち一人ひとりの心に問いかけてきます。